名古屋高等裁判所 平成2年(行コ)11号 判決 1991年3月27日
控訴人
土谷松治
右訴訟代理人弁護士
天野茂樹
被控訴人
愛知県教育委員会
右争訟事務受任者
愛知県教育委員会教育長小金潔
右訴訟代理人弁護士
棚橋隆
同
大道寺徹也
同
立岡亘
右指定代理人
武内重雄
同
近藤裕治
同
松井繁興
同
藤沢宣勝
同
小林勝三
同
森扶瑳雄
同
太田敬久
同
本荘久晃
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
(控訴人)
原判決を取り消す。
被控訴人が昭和五六年一二月七日付で控訴人に対してなした戒告処分はこれを取り消す。
控訴費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(被控訴人)
主文同旨
二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目裏末行の「更生」を「厚生」と改める。
同一八枚目裏九行目の「同校長は」の次に「、厚生計画参加は短縮期間中の午後に限られるとの校長会の申合せがあることを理由に」を加える。
同一九枚目表一〇行目の「求めたが」の次に「、前記理由に加えて、運動会がさし迫り、協力してやろうという態勢の中で休まれると困るとの事由を理由に承認が」を加える。
同二〇枚目裏七行目の「いかない」の次に「。認めると公平性を欠く。申出に計画性がない。」を加える。
同二五枚目表三行目の「被告は」から同五行目の「欠けている。」までを「本件処分は地公法二九条に基づく懲戒処分であり、被処分者にとって不利益な処分であるから、被控訴人において本件処分をなすにあたっては、憲法三一条の趣旨に従って控訴人に対し告知と聴聞の機会を与えるべきであったにもかかわらず、その機会も与えなかった。」と改める。
同二七枚目表六行目の次に行を改めて左のとおり加える。「控訴人は、被控訴人は本件処分をなすにあたって控訴人に対し告知と聴聞の機会を与えなかった旨主張する。しかし、地公法上、懲戒手続について被処分者への告知、聴聞の手続が必要であるとする規定はない。告知、聴聞の手続をとるか否かは、行政庁の裁量に委ねられているものというべきであり、同手続を被処分者の権利として保障したものというべきではない。
因みに、処分の基礎となる事実の認定について双方に争いがあり、右手続をふまないことが被処分者の権利保護に欠けるような場合ならともかくとして、本件の如く処分対象事実につき争いのない場合には、処分者側において認識し、把握した事項によって処分に及んだとしても処分手続に違法があるとはいえない。
本件処分の手続は、<1>まず、市教委から県教委あての内申(懲戒処分の対象となる事実及び「地公法三二条及び三五条に違反するものと認められるので、公務員秩序維持の観点から懲戒処分に付せられるべきものと思料する」旨の意見添付)が愛知県教育委員会西三河教育事務所に出され、<2>西三河教育事務所において調査(担当者は柵木三代次指導課長、酒井辰夫次長)をし、その結果、「綱紀粛正のために相応の処分に付すよう」ということで、同教育事務所長名でもって県教委あてに副申が出され、<3>その副申を受けて、県教委教職員課人事第二担当管理主事(定盛光治)において、副申及び内申を尊重し、かつ、控訴人の行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響のほか、控訴人の右行為の前後における態度、処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等諸般の事情を考慮の上、懲戒処分のうちで最も軽い戒告処分を相当と考え、上司に具申し、最終的には教職員課長、管理部長、教育次長と順次決裁され、終局的に教育長の決裁を経て、発令に至ったものである。
懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして違法とはならないものというべきところ、本件では、控訴人の行為が、はみ出し期間中に一回とれる(校長側は「とれるよう努力する」)という合意がある以上それは当然の権利として行使できるという意識の下で、しかも、校長の承認がなければ職務専念義務は免れないことを承知の上で、校長の再三にわたる説得、夏期厚生計画参加不承認にもかかわらず、職場を離脱し、勤務を欠いたものであって、原理・原則を貫くため、我を通して校長の職務命令にあえて従わず、運動会による遅れを取り戻そうとがんばっている職場の他の職員の士気に水を差すもので、職場の和を乱すものであることに加え、賃金カットを覚悟のうえであること、公務員の服務規律について社会一般の批判が厳しくなってきていること、児童に対して自習とはいえ授業の空白をもたらしたこと、控訴人が過去に懲戒処分を受けていないこと、などを総合的に考慮して、公務員秩序維持の観点より懲戒処分が相当であるとし、かつ、懲戒処分の中でも最も軽い戒告処分を選択したものであって、裁量権の濫用となるものではなく、その範囲内のものとして是認されるべきである。
2 当事者の付加した主張
(控訴人)
(一) 控訴人は、原審において、被控訴人の「市教委は、市内各小中学校長あてに昭和五六年七月二日付けをもって、学校職員に係る夏期厚生計画を県立学校職員の例により実施する旨、同年六月二三日付け県教育長通知の写しを添付のうえ通知した。」との主張を認める旨陳述したが、被控訴人主張にかかる右通知は、同年八月二日付けの文書によりなされたもので、右陳述は事実に反するものである。
すなわち、市教委は、昭和五六年七月二日付けをもって、市内各小中学校あてに「夏期厚生計画の実施について(通知)」と題する通知文を県教育長通知の写しを添付して送付した。しかし、碧南市立南中学校に勤務する藤村伸次教諭が同年七月一六日同学校長の承認を得ないまま夏期厚生計画に参加したため、同教諭に対する一日分の賃金カットと懲戒処分の検討手続に着手したが、同教諭に同処分を科せば愛知県人事委員会に不服申立てをなすであろうことを察知し、同年度の夏期厚生計画の実施に関する文書の見直しを行った。その結果、地公法四二条及び職専免条例上は市教委が同計画の実施主体とされているものの、その実施につき公的に何らの意思表明ないし指示もしていないことに気付き、後日この不備、不手際を指摘されることを恐れ、急拠、同年八月三日付けで学校指導室長名により市内各小中学校長あてに事務連絡として文書の差替えを指示するとともに、「なお、当市立学校の職員にかかる夏期厚生計画の実施については、県立学校職員の例によることとしましたのでよろしくお願いします。」との文言の付加された新たな通知文を送付し、同通知文の学校受付日を前の通知文と同一日とすること、前の通知文(表書きのみ)を学校指導室長あてに返送することを求めたものである。
(二) 鳥居校長が控訴人の夏期厚生計画参加の申出を不承認としたことの違法性について
(1) 昭和五六年六月県校長会と県教組との間で、県教委が提示した同年度の夏期厚生計画実施要領中の「教育公務員特例法二〇条の適用又は準用を受ける職員にあってはその職務の特殊性にかんがみ、つとめて同年七月二一日から同年八月三一日までの間に、この計画に参加するものとする。」とのただし書き部分に関する運用基準を設定し、これを全県的に統一的に実施しようとの目的に基づき、「いわゆるはみ出し部分でそれぞれ一回、授業に支障のない範囲で夏期厚生計画に参加できる。」との口頭合意が交わされ、その内容は県校長会から下部組織である市校長会へ、県教組から下部組織である市教組へとそれぞれ下達されたところ、同合意が公立学校職員の健康の維持向上を図るための夏期厚生計画参加という地公法四二条に基づく重要な権利保障に関するものであり、かつ、それが交わされた目的に照らすと、同合意は一つの規範として法的拘束力をもち、市校長会も市教組もそれに拘束されるものというべきである。しかるに、同合意を受けて市校長会と市教組との間でなされた交渉においては「はみ出し部分で一回限り認める。」と合意して、参加基準を縮小させ、更に、市校長会では「短縮期間中の午後に一回だけ認める。」と一層後退した申合せをしたが、これらは前記口頭合意に反するものとして許されないものというべきである。したがって、鳥居校長が控訴人の夏期厚生計画参加の申出を不承認としたことは、前記口頭合意に照らして(これよりさらに後退した市段階の口頭合意に照らしても)、独自の解釈に基づき裁量権を逸脱してなしたもので、違法といわねばならない。
(2) また、鳥居校長は、控訴人が藤村伸次教諭の行動・主張に同調して夏期厚生計画参加の申出をなしたものとして、その参加を不承認としたものであって、この点においても同校長のなした行為は違法というべきである。
(3) 控訴人は、昭和五六年度の夏期厚生計画の終期である同年九月三〇日までに同計画に一回だけ参加することを望み、同月二五日の参加申出と同月三〇日の参加申出をなしたものであるが、それらは連続した一個の行為であるから、鳥居校長が同月二五日の参加申出を不承認としたことに瑕疵があれば、それは同月三〇日の参加申出を不承認としたことの違法性の判断にも影響を及ぼすものというべきである。
(三) 被控訴人が市教委及び市校長会に対する指導・監督を怠ったことについて
被控訴人は、昭和五六年度の夏期厚生計画の実施要領を作成して県教組などの組合に提示し、その中の前記ただし書き部分の運用に関し「はみ出し部分でそれぞれ一回、授業に支障のない範囲で夏期厚生計画に参加できる。」とすることを県教組との交渉のうえ認め、この内容について県校長会と県教組との間で口頭合意することを了解した。そして、この口頭合意は前記のとおり法的拘束力をもつ規範というべきである。したがって、被控訴人としては、県下の公立学校においてこの規範が確実に実施されるよう指導監督すべき職務上の責務を負っていたものである。しかるに、前記のとおり市校長会と市教組とが同合意を後退させる合意を交わし、しかも市校長会においては更にこれを狭める申合せをなし、その結果、碧南市内の公立学校の職員で同年度のはみ出し部分内の夏期厚生計画に参加した職員は皆無という異常事態を招いた。被控訴人は、この事実を知りながら、市教委・市校長会に対して何らの指導監督もなさず、放置していた。このような状況の中で「せっかく認められた権利を一度は行使したい」との動機で夏期厚生計画に参加した控訴人に対し、被控訴人が自らの怠慢と不手際を省みることなく、本件処分を科したことは裁量の範囲を逸脱し、著しく妥当性を欠くものというべきである。
(被控訴人)
控訴人の主張(一)は争う。
同(二)(1)は争う。市町村立小中学校の教職員については、夏期厚生計画の実施権者は各市町村の教育委員会であり(地公法四二条)、碧南市立小中学校に関していえば、市教委が計画、実施し、かつ、その細かい運用については市校長会と市教組で話し合い、口頭合意をしたというものであり、法的に整合しているものである。市段階での合意をするにつき、県段階での合意を尊重することは当然であるが、市段階において、市の特性と地域の実情を考え、若干異なる運用の合意をしたとしても、その趣旨が著しく逸脱していない限り、それは、地公法四二条の趣旨からいって許されないものではない。また、夏期厚生計画の個別的承認権者は、各学校長であり、校長は、所属職員が普遍的かつ平等に参加できるかどうかを考え、授業等に支障があるかどうか、公平性を欠かないか、協調性を乱さないか、計画性があるか、などの諸般の事情を勘案して、その自由裁量の範囲において承認権を行使できるものであり、その承認の運用基準として、市段階での口頭合意を尊重することは当然である。そして、本件では、鳥居校長の理解した市段階での口頭合意は「授業等に支障のない限り一回認めるよう努力する」であり、同校長は、控訴人の夏期厚生計画参加申出についての承認、不承認の判断に際し、右の努力義務の点に加え、前記の諸般の事情を総合的に考慮して不承認としたものであって、この裁量権の行使には著しい不合理、逸脱は全く存しない。
同(二)(2)は否認する。
同(二)(3)は争う。控訴人は、昭和五六年九月二五日の夏期厚生計画への参加は鳥居校長の説得により自発的に断念し、その後、改めて同月三〇日の同計画参加の申出をなしたものである。
同(三)は争う。前記のとおり、地公法四二条によって市町村立小中学校の職員についての夏期厚生計画の実施権者は、各市町村教育委員会(公共団体)であり、市町村教育委員会が市町村段階で合意する運用基準については、県段階での合意の趣旨を著しく逸脱しない限り、各地方公共団体の合意を尊重することは当然である。そして、本件では、市段階において、市の特性、実情を勘案して合意されたものは、地域の教育関係者(当局側として校長会、職員側として教員組合)による地域の実情を考慮したそれ相応に合理性を有するものとして、県教委が異論をはさむ必要を感じるものではない。
三 証拠関係(略)
理由
一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するところ、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決A1枚目裏五行目の「市教委」から同七行目の「実施する旨、」までと同行から同八行目にかけての「写しを添付のうえ通知した。右通知の」をいずれも削る。
同A3枚目裏末行の「一三」)の次に「(但し、同号証の一、三、四、六、八、九、一〇については後記採用しない部分を除く。)」を加える。
同A4枚目表三行目の「第八号証、」)の次に「原審における」を、同七行目の「及び」)の次に「原審・当審における」を、同八行目の「結果」の次に「(但し、後記採用しない部分を除く。)」をそれぞれ加える。
同A8枚目裏七行目の「原告は」の次に「、同年七月二〇日ころ」を加える。
同A11枚目裏五行目の「運動会」の次に「の練習など」を加え、同行から同六行目にかけての「忙しかったこと」を「自習は好ましくないと判断したところ」と改める。
同A12枚目表七行目「出と」を「出が」と、「繋がりも」を「繋がりを念頭に置いた原理原則に基づくものであることも」にそれぞれ改める。
同A13枚目表行末の次に行を改めて左のとおり加える。「以上(一)ないし(一〇)の各事実が認められ、この認定に反する前掲乙第一号証の一、三、四、六、八、九、一〇の各記載部分及び控訴人本人尋問の結果部分はいずれも前掲各証拠に照らして、たやすく採用できない。」
同A13枚目裏一行目の「以上の」の次に「1の争いのない事実及び2の認定」を加える。
同A13枚目裏5行目の次に行を改めて左のとおり加える。「(1) 前記1、2の各事実に前掲乙第一号証の一、二、三、五、七、九、一〇、一一、一三、第四号証、第五号証の二、鳥居修、沢田剛、杉浦一平、青木一の各証言、成立に争いのない乙第二、第三号証、弁論の全趣旨を総合すると、碧南市公立学校教員に対して実施される夏期厚生計画の目的、同教員の同計画参加に関する取扱は次のように解するのが相当である。」
同A13枚目裏六行目の「(1)」を削る。
同A14枚目裏一行目の「いわなければならない」を「いうべきである」と改め、同行の次に行を改めて「以上の判示に反する控訴人の主張は採用できない。」を加える。
同A15枚目表七行目から同八行目にかけての「明確かつ理路整然とではないものの、」を削り、同八行目の「伝えている」の次に「ことは明らかである」を加える。
同A16枚目裏七行目の「ものであり、」の次に「県・」を、同八行目の「合意も」の次に「、公立学校長の連絡協議会としての性質・機能をもつに過ぎない校長会(この校長会の性質・機能については(証拠・人証略)による。)との口頭了解事項として交わされたもので、」を、同九行目の「対して、」の次に「当該職員の参加目的が同計画の趣旨に適合するか否か、」をそれぞれ加え、同一〇行目の「支障の有無」を「支障があるか否か」に改める。
同A17枚目裏一行目の「ものでもない。」の次に「この判示に反する控訴人の付加主張(二)(2)は採用できない。」をそれぞれ加える。
同A18枚目表一行目の「ことはない。」の次に「以上の判示に反する控訴人の付加主張(二)(3)は採用できない。」を加える。
同A18枚目裏七行目の「本件」を「控訴人の夏期厚生計画参加申し出に対する」と改める。
同A19枚目表一行目の「本件」を「同」と改め、同二行目の「行為が」の次に「地公法二九条一項に定める」を加える。
同A19枚目表三行目の「本件行為に至る過程において、」を削り、同五行目の「問題があり」を「狭きに失し」と改め、同裏八行目の「原告の」から同末行の「できない。」までを削り、同A20枚目表一行目の「本件」を「控訴人の夏期厚生計画参加申し出に対する」と改め、同三行目の「就くよう」の次に「具体的理由を挙げて」と加え、同六行目の「適法に」から同七行目の「行為に出た」までを「前記のとおり勤務を欠いた」と、同八行目の「観点からは」を「観点からも」とそれぞれ改める。
同A21枚目二行目の「いえず」を「いえない」と改め、その次の「この点」から同四行目の「きらいはある」までを削り、同四行目の「前述の」を「前記認定の昭和五六年九月三〇日当時の大浜小における状況の下で控訴人が担当すべき授業などの内容及び」と改める。
同A21枚目表七行目の「さらに」から同A22枚目表七行目の「原告に対し」までを次のとおり改める。
「控訴人は、被控訴人は本件処分をなすにあたって、憲法三一条の趣旨に従って控訴人に告知と聴聞の機会を与えるべきであったにもかかわらず、その機会を与えなかった旨主張する。
しかし、地公法上職員に対する懲戒処分をなすにあたって告知と聴聞の手続を要する旨の規定はなく、また、被控訴人において任命権をもつ県費負担教職員に対して懲戒処分をなすにあたっても同手続を要する旨の定めの存在を認定するに足る証拠はない。したがって、被控訴人のなす懲戒処分にあたって、被処分者とされた同教職員に対し告知と聴聞の手続が常に権利として保障されているものと解することはできず、被控訴人が懲戒処分をなすにあたり、告知と聴聞の手続を採るか否かは、被控訴人の合理的裁量に委ねられているものというべきである。しかし、右のように解しても、懲戒処分は被処分者の権利に不利益を与えるものであるから、処分の対象とされた事実の認定に争いがあり、その認定の如何によっては処分内容に影響を及ぼす虞れがあるなど、被処分者とされた者の権利保護のため告知・聴聞の機会を与える必要性のある場合も考えられ、そうした場合にその機会を与えることなくなした懲戒処分は、裁量を誤った手続によるものとして違法となるものというべきであるが、そうでない場合には、右の機会を与えることなくなされた懲戒処分であっても違法ということはできないものというべきである。
そこで、本件処分をなすにあたり控訴人に対し告知・聴聞の手続を採ることが相当であったか否かについて判断する。
(証拠略)によれば、本件処分の基礎となった事実は、『控訴人は、昭和五六年九月二九日、校長に対し、翌九月三〇日に、夏期厚生計画参加のため、午後、職務専念義務免除の申請をしたが、校長は、校務運営に支障があると判断して不承認とする旨伝えた。当日(九月三〇日)の朝も校長は、再度不承認の意向を伝え、平常の勤務に就くよう命じたが、それに応ずることなく一三時五分より一七時一〇分までの勤務を放棄した。』というものであるところ、この事実のうち、控訴人申請にかかる夏期厚生計画参加につき校長が校務運営に支障があると判断したとの事実を除き、控訴人において争っていないことは前記のとおりであり、校長のなした右判断についても、前記判示(原判決引用)のとおり合理的な根拠に基づくものというべきである。したがって、被控訴人において本件処分をなすにあたり、控訴人の権利保護のため同人に告知・聴聞の機会を与えていたとしても、それによって本件処分の基礎とされた事実の認定が左右され、処分内容に影響があったものと認定することはできないから」
同A22枚目表末行の「行為につき」の次に「地公法に規定された」を加える。
2 控訴人の付加主張(二)(1)について
前記判示(原判決理由二8(一)の説示を引用)のとおり、県・市の段階における口頭合意は法的拘束力をもつものといえず、また、鳥居校長が控訴人の夏期厚生計画参加の申し出を不承認としたことが、同合意に反する結果を招いたとしても、それは裁量を誤ったものとして違法といえないことは明らかである。よって、この判示に反する控訴人の主張は採用できない。
3 控訴人の付加主張(三)について
前に判示したとおり、県の口頭合意は口頭による了解事項であって法的拘束力までもつものではないというべきであり、また、前記(原判決理由二3(二)の説示を引用)判示のとおり、被控訴人の対応に批判の余地があるにしても、本件処分が妥当性を欠くものといえないことも明らかである。よって、この判示に反する控訴人の主張も採用できない。
二 以上の次第で、右と同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を失当として棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤滋夫 裁判官 宮本増 裁判官 谷口伸夫)